2009年世界サンボ選手権大会(エスポワール・ジュニア) の筒井穣氏による試合レポート
(於:ブルガリア・サモコフ)
2009年10月16~18日
初日(10月16日)
【男子ジュニア48kg級:参加11名】
中島涼選手(桐蔭学園高等学校)が初参加。初戦でミルコフ・ロッセン(ブルガリア)と対戦。1ポイントずつ細かく取り合う展開で2-1とリード。その後払い腰に入ったところを持ち上げられて腹這いになり1ポイント献上。2-2のラストポイントで負けている展開だったが試合終了間際の小内刈りが決まって3-2と逆転勝利。2回戦の相手はバギロフ・アリフ(ベラルーシ)、往年のチャンピオン、バギロフ・ナティクの息子である。背負い投げ、大内刈りなどで得点を重ねられた後に抑え込みも入ってテクニカル一本負け。バギロフが準決勝で敗れて敗者復活戦には回れず。バギロフは3位。
【男子エスポワール62kg級:参加14名】
松井高光選手(横浜国立大学)が昨年のジュニア60kg級に続いて参加。初戦のアダミヤン・アルメン(アルメニア)戦では開始早々の足取りで1ポイントを取られるが、組手を落とした際に相手が肩を負傷。2分間のメディカルタイムを超えてしまい棄権勝。2回戦の相手はナザロフ・フシュバフト(タジキスタン)。長身の相手に上から落とされアクティブとパッシブが重なる展開で0-3。小内刈りで1ポイント返すが、追撃したところを返されて抑え込まれ1-7で敗退。ナザロフが準決勝で敗れて敗者復活戦には回れず。ナザロフは3位。
2日目(10月17日)
【男子ジュニア81kg級:参加11名】
一盛奨選手(札幌光星高等学校)が初参加。1回戦はシード、2回戦でイリン・ベャチェスラフ(ロシア)と対戦。序盤から相手の圧倒的なパワーに押されて劣勢、一度目の腕十字は逃げたが二度目に決められ一本。イリンが準決勝で敗れて敗者復活戦には回れず。イリンは3位。
【男子エスポワール68kg級:参加13名】
嶋田元紀選手(日本ウェルネススポーツ専門学校)が一昨年のジュニア70?級以来2年ぶりの参加。初戦でナランフー・バータルフー(モンゴル)と対戦。大会3週間前に膝を負傷しており本来の動きができず、得意のリフトのチャンスが2回あったがいずれもポイントに繋げられなかった。引き落としやタックルなどで細かく加点されて0-7で敗退。ナランフーが準決勝で敗れて敗者復活戦には回れず。ナランフーは5位。
3日目(10月18日)
【男子ジュニア70kg級:参加14名】
菅原佑太選手(暁星高等学校)が初参加。アバシビリ・ベルディア(グルジア)と対戦。粘りを見せるが0-4で敗退。アバシビリが2回戦で敗れて敗者復活戦には回れず。アバシビリは5位。
【男子ジュニア87kg級:参加11名】
草野太智選手(暁星高等学校)が6月のアジア選手権に続いての参加。1回戦はシード、2回戦の相手は昨年の同級王者のオシペンコ・ビクトル(ロシア)。積極的に前に出て相手に技に入らせず、グラウンドで受けた膝固めや腕十字も守り切った。後半になって攻めが止まったところでパッシブをもらい0-1で敗れたが、善戦と言えよう。オシペンコが決勝に進んだため敗者復活戦へ。オクパニ・ビラル(フランス)との対戦では序盤にタックルで1ポイントを奪う。その後相手にパッシブも入り2-0。後半、相手の掬い投げで転がってしまうが、手を付いている状態からだったので1ポイント、逆転を免れてそのまま2-1で勝利。3位決定戦に進み、クルマノフ・イェルダウリェット(カザフスタン)と対戦。1ポイント先行された後、担ぎ技に入ったところで肩を痛める。その瞬間に腕十字に入られ一本負け。メダルには届かなかったが5位入賞を果たした。優勝はオシペンコで同級2連覇達成。
【男子エスポワール57kg級:参加13名】
佐藤都夢選手(東海大学)が初参加。1回戦でロジコフ・ルフトゥロ(タジキスタン)と対戦。
序盤に袖釣り込み腰を受け、一度は踏ん張るが逆方向に捻られ一本負け。ロジコフが決勝に進んだため敗者復活戦へ。ここでもハイダロフ・ボビル(ウズベキスタン)の波状攻撃を受けてテクニカル一本負け。優勝はロジコフ。
【参加国】
アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、ベルギー、ブルガリア、エストニア、フランス、ドイツ、ギリシャ、べネズエラ、グルジア、カザフスタン、キルギスタン、リトアニア、モルドバ、モンゴル、ロシア、ルーマニア、セルビア、米国、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ウクライナ、日本 以上25ヶ国
【参加選手数】 男子ジュニア115名、女子ジュニア58名
男子エスポワール102名、女子エスポワール57名 計332名
<各階級優勝者>
【男子ジュニア】
48kg級 カンジャノフ・ベインベット(カザフスタン)
52kg級 カラウロフ・ワシリー(ロシア)
56kg級 バリュコフ・ウラジミル(ロシア)
60kg級 プシダトク・ラマザン(ロシア)
65kg級 ガンボルド・ヘルレン(モンゴル)
70kg級 グルイェフ・ズルフルガル(アゼルバイジャン)
75kg級 レベデフ・ゲオルギー(ロシア)
81kg級 クシュニル・アリャクセイ(ベラルーシ)
87kg級 オシペンコ・ビクトル(ロシア) ※2連覇
+87kg級 レゼシーゼ・スラビク(グルジア)
団体順位 1位 ロシア 2位 カザフスタン 3位 アゼルバイジャン
【女子ジュニア】
40kg級 ビクベルディナ・クリスティーナ(ロシア) ※2連覇
44kg級 クレトワ・ナディア(ウクライナ)
48kg級 オソヤヌ・タチアナ(モルドバ)
52kg級 バツォバ・ゲルガナ(ブルガリア)
56kg級 ドゥダ・ボルハ(ベラルーシ)
60kg級 イリエバ・イベリナ(ブルガリア) ※2連覇
65kg級 バルコワ・エカテリーナ(ロシア)
70kg級 プロコペンコ・アレーナ(ロシア) ※2連覇
75kg級 ジュロバ・テレザ(ブルガリア)
+75kg級 シネロワ・インガ(ロシア)
団体順位 1位 ロシア 2位 ベラルーシ 3位 ブルガリア
【男子エスポワール】
48kg級 バルタベク・クズメット(カザフスタン)
52kg級 カリモフ・アクマリディン(タジキスタン) ※昨年のジュニア48?と連覇
57kg級 ロジコフ・ルフトゥロ(タジキスタン)
62kg級 アッバソフ・ヤシャル(アゼルバイジャン)
68kg級 ナズツリシビリ・レバン(グルジア)
74kg級 ラマンチュック・アリャクセイ(ベラルーシ)
82kg級 ポリャンスコフ・ミハイル(ロシア)
90kg級 ハンジュヤン・アルセン(ロシア)
100kg級 ディチェフ・ダニエル(ブルガリア)
+100kg級 ゴンジラシビリ・ミリアニ(グルジア)
団体順位 1位 ロシア 2位 カザフスタン 3位 グルジア
【女子エスポワール】
44kg級 ブリロワ・エカテリーナ(ロシア)
48kg級 ロプトゥノワ・エレナ(ロシア)
52kg級 ウバイドゥラエワ・ディルドラ(ウズベキスタン)
56kg級 アリエワ・マリアンナ(ロシア)
60kg級 グリツァイ・エカテリーナ(ロシア) ※2連覇
64kg級 クサノワ・ジュナラ(ロシア)
68kg級 バルダコワ・ナタリヤ(ロシア)
72kg級 ポタポワ・ユリア(ロシア)
80kg級 カチャロフスカヤ・アレーナ(ロシア) ※昨年のジュニア75?級と連覇
+80kg級 イスランベコワ・マリャム(ロシア)
団体順位 1位 ロシア 2位 ベラルーシ 3位 カザフスタン
<総評>
例年並みの規模で盛況だった今大会、参加国は若干少なかったが(昨年32、今年25)これは昨年の大会がアジア選手権の直後にありアジア諸国の参加が多かったためと考えてよいだろう。地元ブルガリアと強豪ロシア・ベラルーシ・カザフスタンらがほぼ全階級参加という陣容だったので参加人数はほとんど変わりなかった。運営に関しても手慣れているブルガリアのスタッフがスムーズに進めており特に混乱は見られなかった。会場は昨年完成したばかりの綺麗なものであり、宿舎・食事のレベルも十分だった。
日本選手団は選手7名と、ジュニア世代のみの遠征としては過去最大の人数であった。初出場4名の中では中島選手の活躍が光った。リードしていたのを2-2にされた展開はいただけなかったが、ラスト1秒で逆転勝ちするという勝負強さも見せてくれた。敗れた相手のバギロフはさすが元世界王者の息子であり、父親ナティク氏の得意技も使っていた。今回は3位に終わったが楽しみな選手である。菅原選手も受けが強く、攻撃力を身につければもっと好勝負が期待できるだろう。一盛選手はパワー負け、佐藤選手は普段レスリングの練習がほとんどなので着衣の技術に対応できなかった。
松井選手は昨年同様の展開でパッシブを重ねられてしまったが、得意の足技で1ポイント返したのは大きい。やはり力で技を封じられている感が強いので、その克服が課題であろう。エスポワール最後の年に賭けて階級も落とした嶋田選手だったが、何しろ膝の怪我が悔やまれる。メダルに絡める地力があっただけに残念だが、帰国後手術する予定とのことだったので、きちんと治してまたシニアの舞台で活躍してくれることを願う。草野選手は強豪相手にも飲まれることなく強気で試合を進め、ロシアのチャンピオンを苦しめた。得点能力を身につけるのが急務であるが、現段階でこの結果は上々だと思う。
チーム全体はよく協力し合っていい雰囲気だった。特に年長の嶋田選手が気を遣ってくれて団長としても助かった。近年、国内ではエスポワールの選手数が少ないが、今回の参加者のようにやる気のある選手たちが多くなってきているのは喜ばしいことである。
なお、大会終了後3日間にわたりソフィア市のサンボクラブ「イリンデン」の練習に参加させていただき、いい経験となった。ここで感謝の意を述べたい。選手たちは、試合はもちろんのこと練習でも多くのことを吸収したと思うので是非今後に生かしてもらいたい。